エコノミストたちの栄光と挫折-路地裏の経済学・最終章
もしかしたら、40代以下の方には「長銀調査部の竹内宏」と言う名前は、なじみが無いかもしれませんが、70年代後半から90年代半ばに、非常にユニークな視点での著書を多く書かれた方です。
代表作としては「柔構造の日本経済」「路地裏の経済学」がありますが、まだ重厚長大一辺倒だった日本の産業に関する理解を、「ソフト」「サービス」と言う観点から捉えたもので、非常に新鮮なものでした。
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エコノミストたちの栄光と挫折 ─路地裏の経済学・最終章─ 著者:竹内 宏 |
この本は、その竹内氏が属した日本長期信用銀行調査部の盛衰を書き留めたものです。
内容としては、ヴォータンの様な同時代人にとっては、きちんと足で稼ぐエコノミスト達が大活躍出来た時代が思い起こされて、ただただ「懐かしい」ものです。
また、余談ですがヴォータンは就職先を選ぶ時、
「興銀、長銀の様な奇形とも言える制度で守られた組織は、いつかは滅びる」
と勝手に判断していました(結果的に、正しかったのですが)。
本書を読んでいて驚いたのは、ヴォータンと同じ事にずっと前に気付いている人が長銀の中にいたことです。
+++++++++ P.48 +++++++++++
私が54年に長銀に入行した時、新入社員に対する訓話で、倉科茂夫(営業部次長、後に副頭取)は、「長銀は制度銀行だから長持ちしない。転職の覚悟をしておくように」とショッキングな話をした。
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また、ヴォータンはこのブログで再三「前川レポートの理論的間違い」を指摘してきたのですが、
「前川レポートの恥ずかしい中身(再論)」(2008年2月10日)
http://wotan.cocolog-nifty.com/blog/2008/02/post_3a3b.html
「前川レポートの恥ずかしい中身(再録)」(2008年1月22日)
http://wotan.cocolog-nifty.com/blog/2008/01/post_2872.html
竹内氏も
++++++++++ P.242 +++++++++++
しかし、前川レポートには無理があった。貿易収支は二国間の貯蓄・投資構造で決まるものであって、日本の内需だけを拡大しても貿易の不均衡は治らない。
(中略)
前川春雄のような才人が間違えるはずがない。余程アメリカの圧力が強かったに違いない。
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と、その理論的あやまちを正しく指摘しています。
ヴォータンは、単に
「黒字でゴメンナサイ」
などと言う、
「理論的に間違ったレポートを出したことで、前川氏が国益を害した」
として批判しているのですが、ヴォータンより一回り以上上のこの碩学は、間違っていることは明白に認めているのですが、それがアメリカの圧力であったと推論して前川氏をかばっています。
氏の業績には、非常に敬意を表するのですが、このあたりが長銀の暴走と破綻を止められなかった原因の一つではないかと思います(氏は、「専務」まで務めています)。
また、長銀が破局に向かった原因に関して、明確な表現は避けていますが、
++++++++++ P.244 +++++++++
それまでの長期経営計画を作成する時には、まず調査部が経済や経営環境の長期見通しを立て、それに基づいて企画部が長期経営方針の案を作成し、現場の意見を聞いて訂正し、最終計画を仕上げた。ところが、第六次長計では、億単位の料金を払ってすべてマッキンゼーに任せた。
(中略)
第五次長計では国内融資の縮小という方針が決まったが、まず目先の不動産融資で利益を稼ぎ、将来に備えるように変更され(以下、略)
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としています。長銀の凋落が決定的となる過大な不動産融資への傾倒の原因はここにある訳です。
周囲が非常に高く評価する調査部を持っていながら、上層部はそのレポートが意に沿わなかった(長銀の凋落を示唆するものまであったくらいですから)為に、外部のコンサルにカネを渡して、都合のよいレポートを作らせたと言うことですね。
この前後を読むと、氏がコンサルをまったく信用していなかったことが、行間から強く感じられます。
不幸にしてヴォータンも、コンサルに関しては同様の体験・感想しかありません。
この本を読んで、当時の「エコノミスト」に興味を持たれたならば、是非「路地裏の経済学」をお読みになってみてはいかがでしょうか?
「日本的」と評して良いと思われる上質のレポートだと思います。

